失敗しない事業承継・M&Aの労務リスク対策

 こんにちは。

 大阪事業承継パートナーズ コンサルタントの岡本です。

 

 先日、株式会社あしたのチーム様×社会保険労務士法人 アウルス様が開催された勉強会にオンラインで参加させて頂きました。

「失敗しない事業承継2つの視点」という表題で、労務リスク対策と権限委譲のノウハウを学ばせてもらいました。

 

 事業承継・M&Aにおいて重要な「人」にフォーカスした内容になっており、人事・労務DDで注意したい点や事業承継を成功に導くポイントなど、大変勉強になりましたので皆様にも簡単ではありますが、シェアしたいと思います。

 

 まずは少し、株式会社あしたのチーム様と社会保険労務士法人 アウルス様の紹介をさせて頂きます。

 

 株式会社あしたのチーム様は、『誰もが “ワクワク” 働ける世界を創る』をVisionに掲げ、クラウド+人事評価制度を構築されており、企業のパートナーとして人と組織の成長を支援されています。

 人事制度の構築はもちろん、その後の運営、定着までサポート体制が整っていることには驚かされます。運営、定着には特に注力されており、企業にとっては有り難く、大変心強い味方だと感じます。

あしたのチーム様

 

 社会保険労務士法人 アウルス様は、人事労務全般だけでなく、IPO支援労務監査やM&A人事・労務DDにも注力されており、今企業が欲しいサービスを幅広く提供されています。また、労務DD・人事DDを行う際、あいおいニッセイ同和損保と提携し、労務リスクの補償に特化した独自の買主用表明保証保険付きサービスも展開。

 私どものサービスの1つDDC(デューデリジェンス コンパクト)の際にもお力になって頂ける心強い事務所様です。

『経営者と同じ立場で、一緒に悩み、契約課題を解決して、一緒に喜び合う事』を理念に掲げ、『正確なスピード対応』をモットーに人と人とのつながりを大切にした事務所運営をされております。

 私も代表 社会保険労務士 海蔵 親一様にお会いしたことがあるのですが、まさに理念通りの熱く、優しく、そして頼りになる方だと存じ上げております。

社会保険労務士法人 アウルス様

 

表明保証についてはこちらの記事をどうぞ 

DDCについてはこちらを 

 

 

 では、本題へ

「失敗しない事業承継2つの視点」から、労務リスク対策についてお話していこうと思います。

 

 

ー労務リスク対策ー

 

【はじめに】

 事業承継・M&Aで承継するものは「資産」「知的財産」「人」です。その中でも「人の承継」は安易にはいきません。

 そして、人口減少傾向にある日本においては、「人の承継」は今後ますます注目され、最も重要視されると予想されます。M&Aにおいては、買収後のトラブルの内容のうち85%は人事・労務問題と言われています。

 では、買い手企業がM&Aの際、人事・労務問題のトラブルを回避するために、何をすれば良いのでしょう。

 結論としては、売り手企業に対して人事・労務DDを行っておくことが重要となり、リスクヘッジになり得ます。

 

 

【人事・労務DDとは】

 人事・労務DDとは、人事労務分野において、法令違反がないか調査し、チェックすることです。法令遵守状況を報告するとともに、簿外債務がどれくらいあるのか具体的な数字をだします。

 人事労務上の確認すべき項目は広範囲に及び、時間と労力が多くかかりますが、事業承継・M&Aにおいて「人」を承継していく上では人事問題、労務問題は無視できないものとなります。

 M&Aにおいては、基本合意書の前提となった売り手企業の情報が本当に正しいのかを確認するために、最終契約を結ぶ前に主に買い手企業が売り手企業に対してDD(デューデリジェンス)と言われる調査を行います。

 この調査には様々な種類があり、税務DDや法務DD、財務DD、人事・労務DD等がありますが、どれも専門家に依頼して調査するものです。

 経営のお金部分に直結する財務DDや税務DDに比べ、優先度が低い傾向にあるのが人事・労務DDでしょう。

 

その他のDDについてはこちらの記事をどうぞ 

 

 

【人事・労務DDを行うメリット】

 一番のメリットは、買い手企業がスムーズに安心して経営を行えるということです。また、買収後、企業の信用を落とさないため、ということも挙げられます。

 人事や労務には故意ではない不注意の事柄も含まれるため、自社の中ではもちろん、買い手企業からは気付きにくい問題が多くあります。特に、残業問題、隠れているハラスメント問題、会計帳簿には記載されない簿外債務などには要注意です。

 残業問題においては、ブラック企業だと噂が広まりやすい項目の1つです。

 簿外債務は、大きな金額になればM&A自体を中止する場合もあり得ます。

 もし人事・労務DDを行なわず、大きな簿外債務を見抜けなかった場合、買収後、経営が行き詰まる恐れもあるのです。

 専門家に見落としやすく、隠れている問題点を発見してもらえることは、一過性のメリットだけではなく、長期にわたりメリットとなり得るでしょう。

 

具体的な労務トラブルの一例を挙げ、簿外債務にも触れておきます。

 

 

◆M&A 買収後の労務トラブルの一例

①未払い残業代発覚

②労働争議・労働組合とのトラブル発生

③うつ病や過労自殺、セクハラ、パワハラの問題発生

 

①未払い残業代があることに気づかず、譲渡後に労働基準監督署の臨検を受けた。

調査で未払い賃金が発覚し、未払い賃金請求を支払わなければならなくなった場合、最大で過去3年分請求されるので、膨大な額になる可能性があります。

※ 従来、過去2年分でしたが、2020年4月からは5年に改正 (当分の間は3年) 

 

②一見問題が無いように見えたが、労働争議・労働組合とのトラブルがあり、買収後に顕在化した。

従業員が個人でユニオンに加盟し、団体交渉の申し入れが来る等の可能性があります。

正常化した後でなければ、M&Aの買収対象にするにはリスクが大きいです。

 

③各問題で損害賠償請求される。

会社が安全配慮義務違反を問われます。会社の信用問題につながります。

 

 

◆簿外債務とは

 簿外債務とは、会計帳簿の外にある債務のことで、貸借対照表に計上されない債務を指します。中小企業の会計は簡略化が認められているため、簿外債務は珍しくありません。

 

簿外債務の種類には、

 ・未払いの残業代・買掛金・債務保証・リース債務・未払いの社会保険金・訴訟リスク等様々ですが、最も多い簿外債務の中の一つがM&A 買収後の労務トラブルにも挙げた「未払い残業代」です。

 これは計算ミスや思い込みによるものが多いと言われています。

 

未払い残業代のよくある例として

●残業時間の計算を30分単位で行っている。

→本来は1分単位で計算しなくてはならない。

●固定残業手当を支給しているので、特に残業時間の把握をしていない。

→固定残業手当を設ける場合は、何時間分の残業代を含んでいるかがわかるように明示し、実際の残業時間がそれを上回った場合は、差額の支払いが必要。

●残業代の計算基礎となる単価が違う

→時給単価=(基本給+諸手当)÷所定労働時間を元に計算するが 、基本給のみで計算し、手当を加えていないことが多い。※ただし除外できる手当もあります。

 

 一部ではありますが、このように、会計帳簿には記載されない債務によって、買収後、買い手企業の大きなリスクとなるものが存在します。

 

 

【人事・労務DDの重要性】

①企業価値の向上(離職や労働条件等の改善)

②M&A成立後のPMI

 

①企業価値の向上(離職や労働条件等の改善)

 売り手企業の従業員に労務管理について不満があった場合、 経営陣が変わったM&Aの期に従業員の意識が変化し、勤労意欲の低下等が起きやすくなります。退職者が続出したり、未払い賃金や残業手当の請求が急増したりする可能性もあります。

 残業手当の未払い、社会保険料の未納などはかなりの高額に上ることがありますし、人が定着しない、採用がうまくいかない場合は、買い手企業の業績に大きな影響が出るのは必至です。

 金銭面はもちろん、本業以外に時間的・精神的な負担を負うことになり、非常にマイナス面が大きいです。

 このような潜在リスクを人事・労務DDにより、把握しておく必要性があり、簿外債務も見極めなければなりません。

 積極的に、法令遵守、適法な経営がなされれば、働く人々の労働条件の改善につながり、企業価値も向上すると思われます。

 

②M&A成立後のPMI

 PMIとはPost Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略で、M&A成立後の統合プロセスの事です。

 PMIには、経営の統合、業務の統合、意識の統合と大きく分けて3つの統合がありますが、いずれにも人事・労務DDは関わってきます。

 人事・労務DDで発覚した就業規則、賃金制度等の問題点を整理し、改善することで、まず売り手企業の従業員の意識は変化するでしょう。前向きなマインドを持つことで、離職を防ぎ、買い手企業と手を取り、統合プロセスを歩んでいけると思います。

 買い手企業も、M&Aにより新しい企業を誕生させる気持ちが大切です。どちらか一方の企業文化や経営方針を押し付けることなく、お互いが統合に向けて進みます。

 その際は、人事・労務DDにより、売り手企業の企業文化や社風、キーマンも把握する必要があると思います。

 M&Aは契約完了する事で終了ではなく、M&A成立後のその先、企業経営をうまく進め、両者を統合し、シナジーを最大限に上げていくことが必須で、その企業成長に密接に関係している人事・労務DDは重要なものとなります。

 

 

 働き方改革や人手不足、少子高齢化を背景に、日本の経済環境も変化し、人事労務面が無視できなくなってる昨今、

「人を採用できる会社、人が辞めない会社」の価値が増大しているのです。

 

 社会保険労務士法人 アウルス様では、人事・労務DDをもう一歩踏み込み、人事DDという項目も策定されています。売り手企業の人的資源の分析を行うことが多いようです。数ある項目のうち、「離職率」「有給消化率」「キーパーソンの把握」が特に重要とされており、分析により問題点・課題点を提起してくれます。

人事・労務DDの詳細は、社会保険労務士法人 アウルス様まで

PMIについてはこちらの記事をどうぞ 

 

 

【まとめ】

 事業承継・M&Aにおいて「人の承継」とは、「資産の承継」のようにモノではありません。

 生身の人間であり、それぞれの意思、喜怒哀楽があるが故に、目に見えない問題も多く難しいでしょう。

 しかし、企業において「人」は企業活動の中心であり、中小企業においては「人」が業績に直結している可能性が高いと思われます。

 企業成長に大切である「人」を丁寧に承継し、統合してシナジーを発揮させる、これこそが事業承継・M&Aの成功と言えるでしょう。

 人事問題、労務問題はデリケートな部分ではありますが、本来は一番大切なのではないか、と私は思っております。

 

 

 本日もお付き合いありがとうございました。

 

 大阪事業承継パートナーズでは、M&A、事業承継のお手伝いだけでなく、後継者育成、会社再建、組織作り等、会社の悩みを専門家と共に解決します。

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