個人事業主の複数屋号について

 こんにちは。
 大阪事業承継パートナーズ 岡本です。
 
 
 昨今、働き方が多様化しているな、と感じられる方は多いのではないでしょうか。
 私自身、個人事業主(フリーランス)が増えているように感じています。
 
 実際にクラウドソーシングサービス『ランサーズ』が発表したフリーランス実態調査によると、2020年に1062万人だったフリーランスが、2021年には1670万人と600万人も増加しているようです。
 副業を認める企業も増えてきたことも、個人事業主が増加している一つの要因だと考えられますね。
 
 また、M&Aにおいても、個人事業主同士のスモールM&Aも活発になっているのが現状です。
 
 
 さて、私は普段から、様々な方とお会いする機会があるのですが、最近は個人の方が複数の名刺を活用し、ご活躍されているケースが増えてきているように思います。
 例えば、勤めている会社の名刺と、個人事業主としての名刺をお持ちでしたり、個人事業主でいくつも事業を行なっており、名刺が複数枚あるケースです。
 
 後者の複数枚の名刺を活用されている方は、一人の経営者が業種の異なる事業を複数行なっているケースが多いです。
 例えば、飲食業と美容事業や、小売店とコンサルタント事業等です。多岐に渡る方もいらっしゃいます。
 それぞれの名刺には、お店や事業所等で違う「名前」がついています。
 この「名前」が一般的に「屋号」と呼ばれるものになります。
 
 
 本日は、個人事業主が複数の屋号を持てるのか、また、複数の屋号を持つことのメリット等をお話ししていこうと思っています。
 
 
 その前に、個人事業主の開業と屋号について簡単に記載しておきます。
 
 

【個人事業主の開業】

 個人事業主が事業を始める際には、税務署に行き、開業届を提出しなくてはいけません
 提出しなくても特に罰則はありませんが、所得税法第229条には開業開始から1か月以内に開業届の提出が定められています。
 開業届に必要事項を記載し、税務署に提出するだけで開業の登録は完了です。
 登録費用は無料となっています。
※開業届は正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」と言いますが、ここでは開業届で統一させて頂きます。
 
補足:
所得税法第229条
住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から1月以内に、税務署長に提出しなければならない。」
 
 

【屋号】

 「屋号」とは、個人事業主がビジネス上で使用する「名前」のことです。
 一般的にはお店の名前や、事務所等の名前を「屋号」にする方が多いでしょう。
 
 先ほど記載した開業届には「屋号」を記入する欄があります。
 屋号は必ず記載しなければいけない訳ではありませんが、事業を展開していくのでしたら、個人名より屋号の方が信用度が高いのではないかと想像しますのでお店の名前や事業所の名前が決定しているようでしたら記載する方が望ましいでしょう。
 また、屋号によっては、何の事業を行なっているかが一目で相手に伝わりますので、メリットとなります。
 
 屋号をすぐに決められない場合は、後から登録してもよいですし、変更もできます。屋号の登録も、費用は無料となっています。
 
 
 
 では、本題へ入りましょう。
 
 

【個人事業主が複数の屋号を持つことは可能?】

 こちらは可能です。また手続きも簡単です。
 
 税務署に行き開業届に必要事項を記載し提出するだけで、屋号が無料で登録できます。
 屋号の追加に関しても、税務署で開業届の屋号欄に屋号とフリガナを記載し、その他参考事項の欄に「屋号の追加登録」などと記載して提出するだけで登録手続きは完了です。
 通常、数十分で終わる大変シンプルな手続きとなります。
 
 
 

【複数の屋号を登録した方がよい場合はどんな時?】

 1つの事業ではなく、異なる複数の事業を展開する際は、屋号を使い分けるということが必要となってくるでしょう。
 
 例えば、
ネイルサロンを経営しているAさんがいたとします。
Aさんは「Aネイル」(屋号)の経営が好調なので、新たにラーメン屋の出店を検討しているとします。
Aさんの登録している屋号は「Aネイル」ですが、ラーメン屋の名前を「Aネイル」にするには少々抵抗がありますよね。
お客様も従業員も混乱する恐れがあります。
 
 この場合、Aさんは「Aネイル」の他に、新しくラーメン屋の屋号を追加登録することが好ましいといえます
 どんな事業を展開しているのか、相手に伝わる屋号、経営に混乱を招かない屋号が理想かと思います。
 
 このように事業展開によっては、屋号を複数活用した方が混乱を避け、相手に伝わりやすくなります。
 
 

【複数の屋号を持つことのメリット】

■事業内容を明確にできる

 同じ屋号で全く異なる事業内容では、混乱を招く恐れがあります。先ほどの「Aネイル」がよい例かと思います。
 屋号を変え、事業内容を明確にすることは、仕事がしやすくなるだけでなく、経営の混乱を避けられるメリットもあります。
 

■屋号付きの銀行口座を開設できる

 個人名ではなく、屋号で銀行口座を開設できます。
 複数の屋号を持ち事業を展開している場合、1つの銀行口座だけでは各事業のお金の流れを把握しづらいと思います。
 各事業の収益を分かりやすくするためにも、事業によって銀行口座を分けることは賢明ではないでしょうか。

 ただし、同一人物が複数の屋号で銀行口座を開設する場合、銀行によっては審査が厳しくなることもあります。

 

■社会的信用が得られる

 個人名より屋号を使った方が、事業として認知されやすく、社会的にも信用が得られやすい傾向にあります。
 
 

【デメリット】

 複数の事業を行うにあたって、複数の屋号を活用することには、大きなデメリットはありません。
 強いて言えば、名刺を渡した相手から「この人は何屋さんなのかな?」と思われる可能性があるかも知れない、ということでしょうか。
 しかし、現実では問題にならないかと思います。
 
 

【確定申告】

 複数の屋号があっても、確定申告の際には複数の事業が1つに紐付けされます。
 複数の事業所得を1つにまとめて申告することになりますので、各事業所毎の確定申告は必要ありません。
 
 

【まとめ】

 いかがでしたでしょうか。
 個人事業主が複数の屋号を登録し活用することは可能ですし、メリットもありますね。
 様々な働き方が社会的に認められるようになり、多様化している昨今、個人事業主のあり方もますます変化していくことでしょう。
 
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