事業承継における遺言書作成の必要性
こんにちは。
大阪事業承継パートナーズ コンサルタントの岡本です。
本日は「事業承継における遺言書作成の必要性」というお話をさせて頂こうと思います。
ちなみに、弁護士である代表の瀧井によると、「遺言書」って、法律の世界では「ゆいごんしょ」ではなく、「いごんしょ」って読むそうです。
豆知識としてどうぞ(笑)
【はじめに】
遺言書は日本において、まだまだ身近な存在とまではいえないかもしれません。
経営者の皆様も、遺言書を作成する必要性を何となく感じながらも、まだ先でよいかな、と思っている方も多いのではないでしょうか。
財産の多寡にかかわらず、遺言書の作成は「争続」トラブルを未然に防ぐ為に有効な手段です。
事業承継においては、会社の存続に関わると言っても過言ではないほど重要となります。
まずは、順を追って、相続について少しお話ししたいと思います。
この後の項目の【トラブルになりやすいポイント】【遺言書作成時に注意したいこと】の前提事項となりますので、ご一読ください。
【相続について】
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産の分け方を話し合い、全員の合意で遺産を分けることになります。(この話し合いを遺産分割協議と呼びます。)
相続人の相続割合の基準となるものが、法定相続分(民法第900条)です。法定相続分は亡くなった方との関係により割合が決まります。基準とはなりますが、遺産分割協議で合意すれば、この割合に従う必要はありません。
もし、遺産分割協議で相続人全員の合意が得られなければ、家庭裁判所の調停や審判に委ねられ、決定までに時間を要すこともしばしばです。裁判の際にも法定相続分が基準となることが一般的です。
遺言書がある場合は、原則としてその内容に従うことになり、遺産分割協議は行われないのが通常ですが、協議が禁止されているわけではありません。
では、
事業承継において、遺言書を作成していなかった場合にトラブルになりやすいポイントをいくつか挙げてみます。※後継者以外に相続人が複数名いると想定します。
【トラブルになりやすいポイント】
①自社株式の分散(経営権の喪失)
②事業用資金の分散
③事業承継の長期化
④事業のストップ
①自社株式の分散(経営権の喪失)
事業承継では、後継者に自社の株式を集中させ、議決権を持たせることで、経営をスムーズに進める事が求められます。
しかし、遺産のほとんどが自社株式だけで、他に現金や不動産等のがない場合は、自社株式を各相続人に分配し、相続分に充てるしかありません。しかも、遺言書がなく、遺産分割協議で全員の合意が得られなかった場合は、法定相続分で分けることになるでしょう。
結果、自社株式が各相続人に分散し、後継者が会社の意思決定を行うのに十分な数の株を集められない事態も起こり得ます。
これでは、後継者は議決権を行使できなくなり、経営はスムーズに進まなくなります。
また、議決権の行使の為、分散した株を買い戻す際には、多くの資金が必要になる場合があることから、これが会社の資金繰りを悪化させる原因となり得ます。
分散しても、買戻しをしても、経営は不安定なものとなる恐れがあります。
②事業用資産の分散
事業用資産とは、事業に使用している土地や建物の事をいいます。
個人事業主で、遺産のほとんどが事業用資産のみの場合、これらを売却して各相続人に分配する事になります。
また、法人であっても、遺産が自社株式+事業用資産(個人名義)だけしかない場合は注意が必要です。
①で述べた通り、株式の分散は経営が不安定になるので避けたい事態です。そうなれば、事業資産を売却して各相続人に分配するしかありません。
事業に不可欠な土地や建物等の資産を失えば、後継者が円滑に事業を行えなくなるばかりか、会社の存続が危うくなります。
③事業承継の長期化④事業のストップ
遺産分割で自社株式を分ける際、相続人全員の合意が得られていない間は、「法定割合に沿ってそれぞれが分割して持ち合う」のではなく、全株式が共有状態という「準共有」という形になります。
「準共有」を、たとえを用いて説明しましょう。
Aさんは会社を経営しており(発行済株式総数が200株)180株を持つオーナー株主、かつ代表取締役です。
Aさんには妻と子供2人(後継者の長男と次男)がいます。後継者である長男は5株を持つ取締役で、相続人はこの3人だけとします。
後継者のAさんにもしもの事があった場合、法定相続分で分けた時、Aさんの持株180株の内、妻に2分の1(90株)、子供2人に4分の1ずつ(45株)ですが、それぞれが分割して持ち合うのではなく、1株についてそれぞれの割合で共有することになります。
そのため、180株全部を3人で共有して持つことになるのです。
共有状態が続く間は、各共有者は共有物である株式を勝手に売却することはできません。
簡単に言えば、株主が死亡し相続が発生した場合、全員の合意が得られるまで、その株式は共同相続人間で共有されるという事です。
このような株式の準共有状態は、議決権も準共有となるため、妻と子供2人は一心同体です。3人とも1人では過半数を占めることはできません。3人が同じ方針で経営を進めて行ければ問題はありませんが、それぞれが対立してしまうと、事業承継の長期化・事業のストップ等、経営に深刻な問題が生じる可能性があります。
株式の「準共有」は民法や会社法等が複雑に絡みます。専門知識が必要ですので、都度、弁護士に相談することが望ましいでしょう。
遺言書作成時には、上記のような事案をなるべく生じさせないよう、後継者に必要な株式や、その他の資産をできるだけ相続させられるようにしたいものです。
その際に最も気をつけたい事は、後継者以外の相続人の遺留分を侵害しない遺言書を作成する事です。
※遺留分とは、相続人に保障されている最低限の取り分の事です。
遺言書により遺留分を侵害した場合でも遺言書が無効になることはありませんが、侵害された相続人が遺留分侵害額請求を行なった場合は、トラブルになることがあります。
【遺言書作成時に注意したいこと】
1.相続人の確認
「法定相続人」の数やその関係性を把握しておきましょう。
「法定相続人」とは、民法のおいて相続人になると決められた人の事です。
遺産分割協議で合意に至ったとしても、新たな相続人が現れた場合は、一度決まった遺産分割が無効になります。
新たな相続人を加え、一からやり直しとなります。
2.会社の資産の見える化
自社の資産の種類やそれぞれの金額を書き出しましょう。
書き出すことで、相続の際、後継者が会社を円滑に経営するために残す必要があるのもは何なのか、何が大事なのかが分かりやすくなります。自社の財務の整理整頓にもなりますね。
3.遺言書による「相続分の指定」(民法第902条)を行う。
「相続分の指定」とは
遺言書により、相続人のうちの一部の者の相続分を、法定相続分と異なった割合に定めることを言います。簡単に言えば、相続人の遺産の取得割合を定めることです。
遺言書による「相続分の指定」がない場合は、
各相続人は遺留分ではなく、法定相続分を遺産分割で要求できます。遺留分も法定相続分もそれぞれ割合は亡くなった方との関係により異なりますが、法定相続分は遺留分より大きな割合となるため、後継者に相続させたい資産が法定相続分を上回っていた場合、後継者はその全てを相続できないことになります。
しかし、「相続分の指定」をしておけば、「相続分の指定」が各相続人の遺留分を侵害しない限り、これに従い遺産を分けることができます。
したがって、「後継者に自社株式と事業用資産の全てを引き継ぐ」と遺言書に記載するなどしておけば、たとえ他の相続人より、後継者の相続分が大きくなったとしても、遺留分を侵害していない限りはこれが優先されます。
後継者に相続させたい株式や事業に必要な資産を指定しておく事は、トラブルを避け、会社の経営が円滑に進み有益でしょう。
経営者は、遺言書にて「相続分の指定」を行う事をお勧めいたします。
なお、適正な遺言書作成には法的知識やノウハウが不可欠です。
たとえシンプルな遺言書になったとしても、本当にそれでいいかという専門的な検討が必要になってきます。
専門家と相談しながら遺言書を作成することが望ましいと思われます。
【まとめ】
事業承継は、後継者がいかにスムーズに経営できるかを経営者自身が考え、準備し、行動することによって成功の道へ繋がります。
遺言書の作成は、その道筋の1つと考える事もできるでしょう。
遺言書は経営者が前もって準備できる、自分の死後の事業計画書と考えておいてもいいかもしれません。
遺言書作成にあたり、経営者は、後継者含め、相続人との日頃からのコミュニケーションが必須です。また、従業員、取引先等の利害関係者とも信頼関係を築いていく事が事業承継の成功と、自社の発展に繋がると思います。
いかがでしたでしょうか。
遺言書作成はハードルが高いように思いますが、事業承継においては必要不可欠であり、経営者自身の思いを伝達する為に有効な手段になります。
経営者亡き後、後継者や親族はじめ、従業員にとっても、不必要なトラブルを回避し、良好な関係を築いていく為の1つのツールと思って下さい。
経営者の思いを正確に伝える為にも、遺言書作成の際には、専門家に協力してもらうことをお勧めいたします。
大阪事業承継パートナーズでは、事業承継・M&Aの相談の他、代表である弁護士、瀧井が遺言書作成のお手伝いもさせて頂きます。経営者である皆様はもちろん、その他の方々にも遺言書作成をご検討頂きたく思います。
遺言書に関してのご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
本日もお付き合い、ありがとうございました。
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