「従業員承継」② 生じることが想定される問題点・解決策

 こんにちは。

 大阪事業承継パートナーズ コンサルタントの岡本です。

 

 

 本日は、「従業員承継」の第2弾としまして、「従業員承継」の際に、生じることが想定される問題点を解決策と共にお話していこうと思います。

 

 前回の記事と重複する部分もあるかと思いますが、お付き合い下さい。

 

 

 「従業員承継」は「親族内承継」と異なり、後継者が現経営者の親族ではない為、現経営者の個人資産を相続する立場にありません。

 そのことから、資金面で「親族内承継」よりハードルが高くなることがあります。

 

 いつくか問題点はあるのですが、一番の問題は、株式をどうやって取得させるか、になります。

 そして、ソフト面では、現経営者の親族からの反対がないのか、も重要となります。

 

 

 1つずつ見て行きましょう。

 

【従業員承継の際に生じやすい問題3つ・解決策】

 

①後継者の株式取得

 前回の記事のデメリット(リンク)でもお伝えしましたが、法人が「従業員承継」を実施する場合、何らかの形で、後継者である従業員に株式を取得させなくてはなりません。

 取得するには、買取るか、贈与を受けるか、になります。

 どちらを選んでも対策が必要となります。

 

 買取から見ていきます。

 

<買取の場合>

 中小企業であっても、株を買い取るには数億~数十億円必要な場合もあります。資金面に心配のない後継者なら問題はありませんが、通常の「従業員承継」の場合、会社の給与から、株式取得の金額を捻出するのは難しいでしょう。

 株式取得の資金が準備できない後継者が多いのが現実です。

 

 解決策は大きく3になります。

 

◆解決策

□ 株式評価を下げ、株価が下がった状態で計画的に買い取らせる。また、同時に後継者を役員にしたうえで、役員報酬の金額を増額して資金を貯めさせます。

※株式評価の下げ方は、また別途記事にいたします。

 

□ 金融機関やファンドを活用する。金融機関等を活用し、株式取得に必要な資金を集めます。

手順としましては、

  ・後継者が自己資金を元手に特別目的会社(SPC)と呼ばれる会社を新しく設立します。

  ・SPCが金融機関やファンドから借入を行い、借入れた資金をもって、対象企業(現経営者の会社)の株式を買取り経営権を取得します。

  ・SPCは対象企業をSPCの子会社とします。

  ・子会社とした対象企業と、SPCを合併させて完了となります。

 

 借入金は事業収入で得るキャッシュフローで返済していきます。

 後継者の出資は小さくて済みますが、会社の借入金が急増し、財務内容は悪化することもあるでしょう。財務リスクの負担は注意が必要なところです。

 法務や税務が大きく関係してきます。弁護士や税理士と共に進めることを推奨いたします。

 

□ 日本政策金融公庫から融資を受ける。

 経営承継円滑化法の中の金融支援を活用することで、後継者個人が株式取得資金の融資を受けることが可能です。

 この方法は、都道府県知事の認定を受けることが前提となります。

 また、あくまでも個人での借入となる為、役員報酬や配当金等の手取りから返済していくことになり、後継者には覚悟が必要となるでしょう。

                                 ※出典 中小企業庁

 

<贈与の場合>

 

 後継者が、贈与を受ける場合の問題点は2つあります。

■ 遺留分の問題→株式の分散の心配・会社に資金を残せない心配

■ 贈与税の問題

 

■ 遺留分の問題

 贈与時に遺留分を侵害してしまうと、後継者以外の相続人が慰留分侵害額請求を起こす可能性が考えられます。現経営者の財産のほとんどが、自社の株式であった場合、侵害分の株式を分配するか、その株式数に応じた金額を相続人に支払わなければなりません。

 株式を分配すれば、株式の分散に繋がり、後継者が将来、会社の意思決定をスムーズに行えない恐れがあります。

 また、株の分散が避けられても、会社の財産から遺留分を支払う事になります。そうなれば、会社に十分な資金を残せない場合もあり、会社は不安定な経営状態となってしまいます。

 過去記事で遺留分について触れています。

 

 慰留分侵害額請求の概要はコチラ

 

※法律では定められていませんが、一般的には株式の1/2超を保持している際に、経営権を保持しているとみなされます。経営権を保持している状態であれば、役員報酬、剰余金の配当等を自身で決定することができます。

また、2/3以上を保持している際には支配権を保持しているとみなされます。支配権を保持している状態であれば、定款の変更、合併・株式交換等、こちらも自身の判断で成立できます。

以上の事から経営がスムーズに進みますので、株式の分散はなるべく避けたいですね。

 

◆解決策

 相続人がいる場合、経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例」が活用できます。

 過去記事では、親族内承継の中でお話ししてますが、条件を満たせば、「従業員承継」にも活用可能です。

 「遺留分に関する民法の特例」は、法定相続人全員の合意があれば、遺留分を減らせる内容です。これにより、会社にある程度の財産を残せ、後継者も安心して事業承継へと進めます。

 「遺留分に関する民法の特例」は弁護士への相談をお勧めします。

 

 

■ 贈与税の問題

 贈与の場合は国に贈与税を収めなくてはなりません。自社株の株価によりますが、大きな金額になる場合もあります。

 

◆解決策

 経営承継円滑化法の「事業承継税制」が活用できます。

 「事業承継税制」とは、後継者が、非上場の自社株式を先代経営者から相続や贈与により取得した場合、相続税・贈与税の納税が猶予・免除される特例制度です。

 中小企業の事業承継に伴う税負担を軽減し、後継者に会社を引き継ぎやすくする為に設けられました。条件を満たし、都道府県の認可を受ける事によって、後継者の負担は軽減されますし、自社株も集めやすくなるでしょう。

 詳しくはコチラの記事から

 

 

②個人保証の有無=債務や担保の把握

 現経営者の個人資産を相続する立場にない、従業員後継者にとって、会社の債務を保証することは大きな負担となり得ます。

 後継者にできるだけ負担なく引き継いでもらう為に、現経営者は後継者の債務保証可能な額まで、会社の債務を減らす対策を取るなど、努力が必要でしょう。

 

 

③家族や従業員への配慮

 前回の記事(リンク)のデメリットでも記載していますが、現経営者の家族の理解も不可欠ですが、後継者の家族への配慮も大切です。

 後継者は次期経営者となり、従業員だった今までとは全く違った境遇に立たされます。精神的な重圧もあるでしょうし、経済的にも会社によっては大きな債務を背負う事となります。

 現経営者は、このような後継者の不安な気持ちを理解し、時間をかけて丁寧に後継者の家族へ説明することが必要です。

 また、従業員、取引先への周知も必須です。

 できるだけ丁寧に、時間の余裕を持って行うことで、より良い「従業員承継」となるでしょう。

 

 

【まとめ】

 本日は「従業員承継」の際に生じることが予想される問題点とその解決策についてお話しさせて頂きました。

 専門家が必要になってくる項目も多いかと思います。

 しかし、本当に大切なことは、現経営者の思いと、後継者の覚悟だと思います。これにより、より良い「従業員承継」になるのか、そして会社が将来発展していけるのか、が決まってくるのだと思います。

 大阪事業承継パートナーズでは、専門家を活用する分野はもちろん得意としていますが、それだけではなく、現経営者に寄り添い、後継者と共に会社の発展に伴走させて頂きます。

 事業承継とは、世代交代だけが目的ではありません。

 それからが、大切なのです。

 

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